ぼちぼち今年を振り返る感じで、今年あなたが観なかったかもしれないけど、僕が観た限りでは観といてもいいんじゃないかと思った映画、すなわち単館系で今年良かった映画を10本挙げてみたいと思いましたので挙げます。年末特別企画というやつです。順位はなし。
まずは上半期公開の映画から。
今年1月公開の映画にして、自分的には年間ナンバーワンと言ってもいい作品。タイトルの通り“むきだし”の人間像に引っ張られまくる、強烈な力場を持った映画です。これに似ている映画はかつて観たことがありません。『自殺サークル』『紀子の食卓』といった園子温映画の集大成にして、過去の作品とはまったくテイストの異なる、狂気的なほどにアッパーな展開に翻弄されてしまいました。感情の塊でアタマをぶん殴られ続けるような思いのできる映画です。
4時間あるのでなかなか手が伸びないかもしれませんが、僕にはあっという間だったので、時間を作って観るに値する作品じゃないかと思っています。ヒロインの満島ひかりは今年の俺デミー主演女優賞、安藤サクラは俺デミー助演女優賞です。特に安藤サクラは凄い。顔を見ているだけで頭がおかしくなりそうになる、とんでもない存在感です。
下半期の『母なる証明』と並んで、韓国サスペンスの実力をまざまざと見せつけてくれた映画です。ことサスペンスに関しては、韓国は世界最高の映画大国だと言っていいんじゃないでしょうか。日本映画はもちろん、ハリウッドや米東海岸産の映画でも、まったく勝負にならないほどのクオリティの高さと歩留まりの良さです。
異常(に見える)犯罪者が描かれるタイプの映画ですので、そういうのがお嫌いな方と、韓国と聞いただけで人格が変わるタイプの方は避けた方がいいでしょう。また、全編に渡って心臓が締め付けられ続けるような緊張感が続きますので、心臓が悪い方にもあまり積極的には勧めかねますが、そうでない方にはかなりオススメです。ただし、この映画を見ると(というか韓国サスペンス全般がそうですが)、韓国の警察だけはまったく信用できなくなってしまうのが困り物です。
サスペンス映画が韓国なら、アクション映画はタイです。というか、この作品の監督であるプラッチャヤー・ピンゲーオ一派(パンナー・リットグライやトニー・ジャーを含む)が無理やりアクション大国に引っ張り上げていると言うべきなのですが。
『マッハ!』でトニー・ジャーを世に知らしめたピンゲーオ監督が見初めた美少女ジージャー・ヤーニンが主人公なのですが、この娘、テコンドーのタイ国強化選手にして、アクション女優になるべく、ピンゲーオの元で4年間もミッチリ修行させられた筋金入りのアクションヒロインなのです。こんな英才教育は志穂美悦子でも受けたことがないほどではないかと思います。
で、ピンゲーオ一座のアクション映画ですから、何しろガチ。当てちゃうのは当たり前で、凄いのになると3階から落ちるなんてのもあります。エンディングでオフショットがあるのですが、「3階から落ちるのどうやってるのかなー」なんて観てると、本当にただ落ちているという事実に度肝を抜かれたりするので注意が必要です。
そしてピンゲーオ一座の場合、当てるアクションをしたときに、本当にそれが説得力を持った画になっているのが重要です。この辺が、凡百の「当てればリアル」だと思っている映画人との努力と工夫と才能の差ではないかと思います。その差を実感するためにも、一見の価値がある作品ではないかと思います。
サスペンスで韓国に劣り、アクションでタイの後塵を拝し、じゃあ日本映画には園子温みたいな突然変異的な変態しかいないのかというと、そんなことはありません。世界でも髄一のドキュメンタリー作家である想田和弘がいます。
想田監督自身が自ら「観察映画」と呼ぶように、この映画は開かれた精神科クリニックを舞台に、そこに通う患者さんたちの姿を、可能な限り虚飾や演出、誘導を排した形で、ただひたすらに映し出します。そして、往々にして「あっち側の人」として片付けがちなこの種の患者を、極めてフラットな、同じ目の高さで追い続けている点に、「観察者」の視線ならではの凄みがあります。そこに映し出されているのは、あなたと同じ世の中に住む人間の日々なのです。
ことドキュメンタリーに関しては、そこに映し出された風景が空気まで良く理解できる国内の映像のほうが、説得力という点において一日の長があるのではないかと思い知らされる作品です。
6月公開作品ですが、日本中で順次上映され続けており、来年早々には広島で上映予定があるようです。
『ゆれる』で人の心のヒダの際を克明に描いた西川美和監督の最新作。役者としての笑福亭鶴瓶の、今のところの最高傑作でもあります。
本作で西川監督が描いたのは、鶴瓶が演じるドクターらの隠された心の陰と、牧歌性と残酷さをひとつのものとして孕んでいる、田舎ならではの微妙な雰囲気でした。それでいて、鑑賞後の後味は素晴らしく甘く爽やか。本作を通じて、西川美和という監督は、また一段上に上がったのではないか、と思えるような映画です。
また、虚飾を排して、じっと落ち着いた演出を見せているという点では、ジャンルの違いこそあるものの、上に挙げた『精神』に通じるところもある作品です。フジテレビが出資しているようなギャーギャー五月蝿い映画に飽いた方には特にオススメです。日本映画の「らしさ」のひとつは、こういう空気感にあるのではないかな、と思ったりもします。まあそれを狙いすぎると、それもまたアレなのですが。